現在、ボートトレーラーは、アルミニウムやステンレスの特性を活かして、安全にボートを牽引できるよう加工・製造されています。最近では、新素材の鋼板も開発され、その材質を使ったボートトレーラーの登場は、加工技術やデザインに盛り上がりを見せています。 ボートトレーラーを選ぶ際には、それぞれの材質の特徴やメリット・デメリットを把握し、使用頻度や重量にあったものを選ぶことが大切です。
この記事では、以下について解説します。
この記事を読んで、ぜひボートトレーラーの材質を選ぶ際の参考にしてください。
ボートトレーラーの素材を変更することで軽量化が可能です。軽量化によって、トレーラーを牽引する車両の負担が軽減され、燃費改善と操縦性の向上が期待できます。
具体的には、鋼材から軽量であるアルミニウムやチタンへの変更です。アルミニウムは鋼材に比べて軽量で、耐食性や耐久性も高く、取り扱いが容易です。また、チタンはアルミニウムに比べると重いものの、強度や耐久性はチタンの方が高いため、高度な性能を求められるボートトレーラーに使用されています。しかし、価格が非常に高く、ボートトレーラーを製造するには現実的な値段ではないでしょう。
ここでは、強化アルミ製のトレーラーについて説明します。
強化アルミ製のボートトレーラーは、軽量で丈夫なのが特徴です。
強化アルミとは、アルミニウム合金の一種で、アルミニウムに、銅、マグネシウム、亜鉛などの金属を加えて製造される鋼材です。アルミニウム単体よりも強度や耐久性が高く軽量であるため、航空機や自動車、スポーツ用具、建築資材、ボートトレーラーなど、様々な分野で利用されています。 ただし、価格は鉄や鋼のトレーラーよりも高くなる傾向があるため、予算に応じて選択する必要があります。
それぞれ詳しく説明します。
アルミニウム合金は鉄や鋼よりも軽量であるため、トレーラーの車両重量が軽くなり操縦性も上がります。その結果、燃費の向上も期待できます。
アルミニウムは可塑性が高く曲げやすいので、美しく滑らかな曲線や形状を作り出すことができます。そのため、設計しやすく、デザイン性に優れたボートトレーラーを製造できる素材です。
丈夫で錆びにくいため、頻繁に使用しても安心して維持できるという点もメリットのひとつです。海水や塩水に触れることが多いボートトレーラーには特に適しているといえるでしょう。また、メンテナンスが簡単で、定期的な清掃と塗装を行えば、トレーラーを長持ちさせられます。
強化アルミ製のボートトレーラーには、以下のようなデメリットがあります。
それぞれ詳しく説明します。
耐久性など様々な点で優れた材質なので、鉄や鋼よりも高価で製造コストがかかり、他の素材に比べてトータルの費用が高くなりがちです。
鉄や鋼と比べて衝撃に弱いため、運転中のトレーラーの衝撃や、船舶やウォータースポーツ用品の荷重によってはトレーラーが変形したり、破損する場合があります。
熱伝導性が高いため、夏場などの高温時には手で触れることができなくなるほどトレーラーの表面が熱くなります。そのため、高温時の取り扱いには注意が必要です。また、静電気を帯びやすいので、トレーラーの表面に蓄積された静電気が周辺機器に影響を与える場合があります。そのため、静電気対策を行うのが良いでしょう。
アルミニウムは鉄や銅と比べて約1/3と非常に軽いのが特徴です。強化アルミで製造されたボートトレーラーはその他の材質で製造するより軽量になるため、少ないパワーで牽引することができます。その結果、燃費が良くなり、牽引車への負担が軽減するでしょう。牽引車の負担は、長く使うためには大切にしたいポイントです。高価になりますが、使い続ける上での燃費の良さも合わせて考慮すると良いでしょう。
ステンレス製のボートトレーラーは、ステンレス鋼という合金を使用しており、その中でも主にクロムを含んだ合金を使用しています。この合金は錆に強く耐久性が高いのが特徴で、長期間の使用に向いている素材です。
ボートトレーラーを選ぶ際には、錆びにくさや塩害による劣化に配慮する必要があります。ステンレスは他の材質に比べて耐食性に優れ錆びにくく、強度や耐荷重性能が優れているため、重いボートを積載しても安定して運搬できます。
ステンレス製のボートトレーラーは、鉄やアルミニウムと比較して優れた耐食性を持ち、錆びにくいことが特徴です。
ステンレス鋼という合金を使用しており、その中でも主にクロムを含んだ合金を使用しています。この合金は、錆に強く耐久性、硬度共に高いという特徴を持ち、長期間使用することができるので、ボートトレーラーに求められる性能を兼ね備えています。そのため、船舶やウォータースポーツ用品を長期間運搬する場合には、ステンレス製のボートトレーラーが選ばれることも多いでしょう。
ステンレスのボートトレーラーのメリットは、以下の点があります。
ステンレスは錆びにくく、耐食性に優れているため、水や湿気などの環境にさらされることが多いボートトレーラーに適した素材の1つです。長期間使用しても腐食や劣化が少なく、耐久性が高いため、メンテナンスがしやすい特徴があります。
ステンレスは、無塗装の状態で強い光沢があるので塗装自体が不要になり、経年変化による色褪せや剥がれの心配がありません。また、塗料を使用する必要がないため、有害な化学物質の排出量を抑える効果があります。そして、リサイクルが可能な材で、スクラップされたステンレスは再びステンレス製品として利用できます。
ステンレスは一般的な鋼材よりも強度が高く、強い力や衝撃に耐えられます。強度が増し、耐久性が向上することで長期間でも安心して使用できるでしょう。
ステンレス製ボートトレーラーのデメリットは、以下の点があります。
ステンレスは硬い素材であるため、加工や溶接などの工程が難しく、切削に時間と手間がかかります。技術者の技術や経験が必要になるため、一般的な鋼材に比べて価格が高くなる傾向があります。
ステンレスは、他の一般的な鋼材よりも比重が大きく密度が高いため、同じサイズの製品と比較しても重い材といえます。そのため、運搬や牽引時の負荷が増えるでしょう。
ZAM鋼板は、日鉄日新製鋼株式会社が開発した、亜鉛・アルミニウム・マグネシウムの3種類の元素を配合した新しい高耐食めっき鋼板です。
亜鉛(Zn)・アルミニウム(Al)・マグネシウム(Mg)の3つのメッキ層を持つことから、それぞれの頭文字をとり「ZAM鋼板」と名付けられました。あらかじめ、めっき加工がされており、製造の過程においてめっき加工を施す必要がない点が特徴です。そのため、効率が良くその分のコストもかかりません。3つの材質自体に様々なメリットがあるので、長寿命化・軽量化・耐熱性の向上など、生産効率の向上にも期待できる新素材です。
ZAM鋼板製のボートトレーラーのメリットは以下の通りです。
それぞれ詳しく説明します。
耐食性が高く、長期間の使用に耐える
ZAM鋼板は、亜鉛・アルミニウム・マグネシウムの3種類の元素を配合しているので、従来の鉄鋼に比べて耐食性が非常に高く、錆びにくい特性を持っています。そのため、塩害の強い海岸地帯での使用にも適しています。
鉄鋼に比べて軽量かつ強度が高いため、トレーラー全体の重量を軽くすることができます。その結果、牽引車への負担が少なくなり、燃費も良くなる特徴があります。
ZAM鋼板は硬いめっき層があるため、プレス加工をした際の割れやフランジ残量といった未締結部分が少なく済みます。プレス加工に適したZAM鋼板を使用することで、生産効率が向上するでしょう。
通常、鋼板の仕上げには切削や研削、バリ取りなど多くの後処理が必要になります。しかしZAM鋼材の場合は、材質そのものにめっき層があり塗装も必要ないため、後処理も少なくて済みます。
ZAM鋼板製のボートトレーラーのデメリットは以下の通りです。
それぞれ詳しく説明します。
ZAM鋼板は、従来の鉄鋼に比べて硬度が高いため、新素材である現段階では、自由な形に曲げるといった柔軟な加工は難しくなります。また、めっき鋼板は溶接の熱でめっきが蒸発してしまうので、溶接自体が難しいです。
ZAM鋼板はステンレス製よりも高価な素材であるため、製造コストや製品価格が高くなる可能性があります。
ZAM鋼板製のボートトレーラーは上記の耐食性が高いという特徴から、従来の鋼板製のボートトレーラーに比べて、錆びにくく長持ちすることが期待できます。長期間の使用でも修理や交換の必要性が少なく、結果的にトータルコストが低くなるでしょう。
また、ZAM鋼板は、鉄鋼にアルミニウムやマグネシウムを含有することで、強度や耐食性を高めた新素材です。従来の鉄鋼に比べて軽量でありながらも同じ強度を持つため、加工の際に必要な材料が少なくて済み、製造コストの削減にもつながります。購入価格は高い傾向にありますが、長期間使用できるメリットを考えると、結果的に低コストとなるでしょう。
ボートトレーラーに使用される素材であるアルミニウムやステンレスは、海外企業の量産やコロナ禍などの様々な要因によって、日本国内では減産傾向にありました。
アルミニウムについては、自動車の減産が逆風になったことに加え、添加剤であるマグネシウムの不足が原因で、ほぼ中国に頼っていた輸入量を確保できなくなっています。また、ステンレスもリーマンショックをきっかけに減産が続き、2016年にはインドに逆転され世界第3位の生産量となりました。
しかし、ZAMに代表される日本独自の技術力と積極的な営業戦略などによって、アルミニウムやステンレスなどの素材にも、少しずつ回復の兆しが見えてきています。今後、燃料電池・エコカーなどの新規需要がさらに増え、業界全体が活性化することで、ボートトレーラー製造においても盛り上がっていくことが期待されています。
ボートトレーラーに使用される「素材の進化」については、今後もさまざまな技術や素材が開発されることが期待されますが、ZAM鋼板のような目を見張るほどの進化はあまり期待できないでしょう。
ボートトレーラーに使われる素材は、強度と軽量化を両立する必要があります。そのため、製造しようとしても高価格で加工が難しいといった、現在の技術レベルでは多くのハードルが出てきてしまいます。また、ボートトレーラーは、安全性が求められるため、耐久性や安定性、防錆性などが重要な要素となります。これらの要素は、素材のみで解決できるものではなく、設計や製造技術などの面からも取り組む必要があります。
アルミニウムやステンレスの国内生産の減少や、ボートトレーラーに使用する素材の特性を踏まえると、今後も既存の材質に対しての加工技術や低コスト化が充実していくと考えられるでしょう。ボートトレーラーは、安全性が最優先されることから、材質の耐久性や加工のしやすさなど、様々な側面から材質を選ぶことが大切です。最近では、強化アルミやステンレスといった、今まで十分に流通し加工・製造されてきた材質に加え、ZAMといった新素材も開発されました。
価格や加工技術においてはまだ問題が残されていますが、新素材の登場によってこれまで一般的に使われてきた材質周辺の技術開発も進んでいくことが期待されています。
ボートトレーラーの各材質の持つメリット・デメリットを十分に考慮し、安全にボートを牽引するための参考にお役立てください。